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衆議院総選挙結果を読み解く

突然の衆議院解散・総選挙が終わりました。結果は数字的には、自民党・公明党の与党が憲法改正の発議に必要な3分の2の議席を確保。多くのメディアは与党の大勝、圧勝などと報道しています。平和派、脱原発派市民の中にも、もう日本は終わりだとか、本気で日本から脱出しようと考える人が現れています。しかし、緑茶会の関係者の評価はずいぶん違いました。これまで岩盤のように動かなかった、日本の有権者の行動が変化した。結構大きな地殻変動が起こったのでは・・と。

与党は大勝したのか

与党は有権者の選択数では本当は負けている。それは比例票の合計で明確に現れている。
自民党が1855万、公明党が697万、立憲民主党が1108万、希望の党が967万、共産党が440万、ここまでで与党は2552万、野党が2515万で拮抗。その差は37万で、社民党の票が94万。ここで逆転。維新の338万も野党とすれば、与党側は完敗している。

表1 2017総選挙における各政党の比例得票数
(ELECTION-PORTAL.COMより)

比例代表 議席 得票数 得票率
自由民主党 66 18,555,717 33.3%
立憲民主党 37 11,084,890 19.9%
希望の党 32 9,677,524 17.4%
公明党 21 6,977,712 12.5%
日本共産党 11 4,404,081 7.9%
日本維新の会 8 3,387,097 6.1%
社会民主党 1 941,324 1.7%
幸福実現党 0 292,084 0.5%
新党大地 0 226,552 0.4%
支持政党なし 0 125,019 0.2%
日本のこころ 0 85,552 0.2%
合計 176 55,757,552

小選挙区では与党が苦戦

今回の総選挙で、大躍進をしたのは、自民でも公明でもなく、立憲民主党である。
立憲民主党と自民党、公明党の候補者が1騎打ちとなった選挙区では、立憲民主党がことごとく勝った。
立憲民主党、希望の党、自民党という三分裂となったところでも、自民党・公明党の候補を振り切って勝った選挙区もある。少なくとも、希望の党を抑えて2番手となり、惜敗率も高く比例当選した候補者も少なくない。
今回の立憲民主党の勝ち方は尋常ではない。東海ブロックでは比例得票数に割り当てられた議席数に候補者数が届かず1議席をみすみす他党に渡さざるを得なかった。この1議席をもらったのが自民党で、これによって自民党はかろうじて改選前と同数になった。
公明党は6議席減の29議席で、与党はじつは自民党も公明党も議席を減らしたのである。それを圧勝とか大勝と書き立てるメディアは、完全に事実を読み違えているか、完全な政府のコントロール下にあるとしか言いようがない。もし、立憲民主党がもっと小選挙区に候補者を立て、もっと比例区に候補者を並べていたら、与党側の議席数は確実にもっと少なくなっていただろう。

立憲民主党と希望の党

しかし立憲民主党は、もともと希望の党の副産物だった。安倍総理の突然の衆議院解散があり、急遽、小池東京都知事による「希望の党」が立ち上がる。春の東京都議選の勢いを脅威に感じた自民党が、小池チームの衆議院選挙体制が整う前にと打って出たのが、この解散の真の理由だろう。
「希望の党」立ち上げは小池氏にとって大きな賭けだった。都知事という職は辞めるわけにはいかない。しかし、解散総選挙で、国政への足がかりのできるチャンスをみすみす捨てるわけにもいかない。しかし選挙資金はない、選挙部隊もいない。それが、民進党を丸呑みにするという大胆な構想になったのだろう。誰が考えたのか知らないが、小池→連合→前原という順番で伝えられたものと思われる。逆の流れはない。
解散総選挙の方針は、民進党の代表を蓮舫が辞任した時に安倍総理は決意しただろう。もりかけ問題、安保法制問題で、国民有権者の怒りが渦巻き、ほうほうの体で国会を終わらせて逃げた安倍総理の前に、最大野党の代表辞任、代表不在という好機が巡ってきたのである。本来ならば、国会を開け、安倍総理は説明せよ、政府は責任を取れ!と、国民と一緒になって抗議の国民運動を展開するチャンスをもらった最大野党が、それを放り出したのである。(蓮舫の責任は大きい。)
そして、1ヶ月の空白ののちに誕生したのが前原代表である。代表選の争点の一つが「野党共闘」で、共産党との連携をはかるのかどうかだった。それを否定した前原氏が代表になったのだから、ますます自民党にとっては解散の好機になった。
この間の選挙では、衆院でも参院でも「野党統一なるか」がカギであることは、一般的になりつつあった。野党統一がなれば、衆議院の小選挙区でも勝てる。全小選挙区でそれが実現すれば、政権交代も可能・・ということを、少し政治に関心がある人であれば認識するようになっていた。
前原氏も、そのことは良くわかった上で、それでも共産党との連携は嫌だった。そこに、小池氏側からの囁きである。合体しましょう・・。実は合体ではなく、希望の党による吸収合併で、基本方針は希望の党に従うというものだったのだが、いつも細部を詰めない前原氏は、これに飛びついた。
民進党の候補者は全員「希望の党」の公認候補になる・・ということだったが、小池氏の方針(政策)に従わないものは「排除」、選挙区も小池氏の指示に従うという大前提があった。民進党の候補者のほとんどは、そんなことは全く知らず、前原代表の「英断!」に拍手した。野党一本化だと思ったからだ。
しかし「排除!」である。知名度のあるベテランは無所属という選択もあるが、比例復活に望みをかけるしかない弱い候補には、それは討ち死にを意味する。排除された、あるいはそういう思想の希望を拒否した候補者の立候補の受け皿がいる。もう選択肢は新党しかなかった。その役割が、前原氏と代表選を戦った枝野氏に託されたということだ。
その結果、「原発ゼロ・改憲・安保関連法賛成」の希望と「原発ゼロ・改憲反対・安保関連法反対」の立憲民主党という構図になった。有権者には、違いが分かりやすく、しかもどちらも原発ゼロで選びやすい。立憲民主党の政策が、実は多くの有権者が望んでいたことだから、多くの票を集めた。分かりやすいので、支持政党なし有権者もかなり動いた。
これまでも、それが最大公約数に違いないとは思われていたが、民進党内の改憲派、連合=電気の労働組合中心の原発推進派などが、政策をわかりにくくしていた。それらの弊害を小池旋風は吹き飛ばしてくれた。(逆説的な意味で、小池、前原の功績は大きい。)
もちろん最大の功績は、苦境の中で踏ん張り、頑張った枝野氏である。

野党一本化できていれば野党圧勝だった

小選挙区選挙において与党は一本化で、公明党と自民党が両方出たりしない。票が割れて、野党を利するからだ。なのに野党は乱立する、なぜ学習しないのだろうか・・と不思議だった。もし「排除」発言がなく、「希望の党」による一本化ができていれば、小選挙区では野党側が圧倒していただろう。一部マスコミでは67選挙区で逆転とも伝えられている。これは67の差ではなく、67の与党側小選挙区当選者を比例に追いやり、67の野党側比例区落選者を拾い上げることを意味する。つまり倍の134議席差がつくことになる。

与党側 313→179、野党側 119→253

他に無所属十数人もあり、本当に野党側が圧勝していた。政権交代である。
それがなせなかったことは残念だが、その力が日本の有権者にあることが明白になった。問題は選択肢の出し方だけだ。表2は、これまでの得票率の推移だが、今回特徴的なのは、立憲民主党も希望の党も、ほぼ前回の民進党と同じくらいの票をとっていること。足せば自民党を上回る。民進党への投票数の倍の人が、今回はこの2党に投票したということだ。他の党に大きな変化がないことから見ると、この選挙、明らかに有権者が動いたということである。まさに、ここ数年岩盤のように動かなかった有権者が動いた。

表2 比例得票率の推移(ELECTION-PORTAL.COMより)

台風が来なければ、与党側はもっと議席を失った

今回総選挙の投票率は、前回を1.02%上回ったものの53.68%、戦後2番目の低さだという。しかし期日前投票の投票率は、前回を7.45%も上回っている。これを関心の高い人は期日前投票に行ったので、投票日当日は少なかったと解釈する専門家はいないだろう。一般的に、期日前投票の多さは、関心の高さを表している。当日の6%の低さは天候だ。台風の直撃という荒天を押してでも投票するには、それなりの覚悟が必要だった。相当の有権者が断念をしたのだろう。もし晴天だったら、野党側とくに立憲民主党の得票数はもっと増え、与党側は得票比率を減らし、もっと議席を失ったであろう。
マスコミ報道では、この点に触れつつも6%という数字は出さない。1%は100万人強で、この数字は600万人以上の人が得票を断念した可能性を示唆している。しかも、マスコミは与党側大勝とは言いながら、その原因は野党崩壊とか、敵失(野党のエラー)によるとも報道している。与党に有権者の支持は多くないと。投票率の悪さは、最初から与党側大勝という情報操作をして、投票しても無駄という意識を有権者に持たせたからという分析もある。
つまりは、台風、情報操作、そして野党側の分裂という、政策とは無関係の出来事によって、かろうじて与党側の議席は維持されたのだということもできる。その幸運は二度もない。
しかも憲法、安保問題では、強力に反対する野党第1党まで出来てしまった。与野党対立が鮮明になり、これから、有権者はどちらを選ぶべきかクリアに考えるようになる。このまま、同じ体勢で、次の総選挙になったら、おそらく立憲民主党が政権を取るであろう的な状況が出来てしまったのである。
自民党の重鎮たちが浮かぬ顔をしているのも理解できよう。

原発ゼロは評価されなかったのか

では脱原発の観点からは・・どうだったのか。
希望の党の「原発ゼロ」が、ほとんど評価されなかったように見えることは悲しいことだ。しかし、小池氏も各候補者も、この点をよく踏まえていたかというと、それも怪しい。全候補者のHPを確認したが、原発ゼロを高々にうたっていた候補者はほとんどいなかった。それを、有権者に見透かされたとも言える。
それにひきかえ、立憲民主党は旧民進の中でも「原発ゼロ」で当たり前という候補者が多かった。福島原発事故の際に、官房長官として「健康に直ちには影響がありません。」を連発していた枝野氏も原発推進派ではない。今回、その時の強烈な印象が、憲法改悪を止め、安保法制に反対する救世主のような印象にかき消されてはいるが、今でも、あの時の枝野氏の発言は許せないと怒っている人は少なくない。一度、あの時の対応について総括し、反省点を表明されることが望ましいと思う。
立憲民主党と希望の党、ともに「原発ゼロ」を掲げたことで、じつは「原発ゼロ」の票は2倍になった。十分に評価されたのである。
今後は、原発ゼロ議員と市民が共同して「脱原発の工程表」をしっかりと作って、政権交代後の明確な脱原発の開始を準備したい。

緑茶会(脱原発政治連盟)代表
竹村英明

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